終息の気配を微塵も感じさせない新型コロナ。あいかわらず我々は家に閉じ込められているわけだが、常日頃から引きこもり体質の自分にとって、それ自体はたいした苦痛ではなかった。
とはいえ、緊急事態宣言が発令されたことで最寄りの書店が営業を取りやめ、仕事帰りに書店に立ち寄るという習慣が断ち切られたのはつらかった。自分にとって、未知との出会いを演出してくれる書店という存在がいかに大事だったかを痛感する1年半だった、と振り返って思う。
結果的に2020年は、これまでの人生において最も読了した本の多い年だった(詳しくは先の記事を見てもらいたい)。この2021年前半も、引き続き本を読む機会の多い年だったと記憶している。それはパンデミックが収まっていないことと同義ではあるが、本を読んでいる時間が何よりも幸せである自分にとって、やはりそれほど辛いものではなかったというのが正直なところだ。
こうやってリストを振り返ってみると、昨年後半の履歴と変わらず、反権力・反体制・反分断の観点で選ばれた本が多いことがわかる。そしてノンフィクションが非常に多い。ほとんど小説を読んでいないことに驚いた。誰かが生み出した空想の世界に浸るよりも、より現実的に迫る危機を乗り越えるための本を手に取る機会が多かったのだろう。
その代表は、言うまでもなく東京オリンピックだ。この記事を書いている3日後(公開日からすると翌日!)には、ついに開会式が行われるという。スキャンダル続きの運動会なのはご承知の通りだが、この3日前には開会式のコンポーザーを務める小山田圭吾が炎上の末に辞任し、さらに絵本作家ののぶみも次いで炎上している。障害を持った人に暴力をふるったり、度を超えた迷惑行為を繰り返したりと、過去の悪行をおもしろいと思ってかネタにするその様は醜悪だ。どう考えてもオリンピック・パラリンピックにふさわしい人選ではないし、そもそも世に出ていい姿勢の人間ではない。
女性蔑視発言で辞任した森もそうだが、ここまで炎上のリレーを開催できるこの国はオリンピックを開催する資格がないと思う。コロナという災厄は、日本がこれまで包み隠してきた「なんとなく先進国っぽい、ふわふわしたイメージ」を剥奪するのに役立ってしまった。個人的には、この国がずいぶん劣化していることを世に知らしめられてよかったと思っているが。
いざオリンピックが終わったら、歴史修正主義者たちが「コロナに打ち勝って大成功に終わった東京オリンピック」について語りだすだろう。2021年の末に公開するであろう後編では、そういった「日本スゴイ」論調をぶっ潰す骨太な本を多数読んでいくことになると予想する。過去の失敗を反省するまともな国に生まれ変わり、この予想が外れてしまうことを期待しながら。
2021年1月
書名 | 著者 | 評価 |
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Weの市民革命 | 佐久間裕美子 | ◯ |
独学大全 | 読書猿 | ◯ |
ワタナベコウの日本共産党宣言 | ワタナベコウ | ◯ |
自分ごとの政治学 | 中島岳志 | ◯ |
歪む社会 | 安田浩一・倉橋耕平 | ◯ |
定点観測 新型コロナウイルスと私たちの社会 2020年前半 | 編・森達也 | ◯ |
フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ | 森達也 | ◯ |
U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面 | 森達也 | ◯ |
しょぼい企業で生きていく 持続発展編 | えらいてんちょう | △ |
THIS IS JAPAN | ブレイディみかこ | ◯ |
三行で撃て | 近藤康太郎 | ◯ |
日本戦後史論 | 内田樹・白井聡 | ◯ |
白井聡対談集 ポスト戦後の進路を問う | 白井聡 | ◯ |
だまされ屋さん | 星野智幸 | ◯ |
コロナの時代を生き抜くためのファクトチェック | 立岩陽一郎 | ◯ |
殺人都市川崎 | 浦賀和宏 | ◯ |
言論自滅列島 | 斎藤貴男・鈴木邦男・森達也 | ◯ |
なんとかならない時代の幸福論 | ブレイディみかこ・鴻上尚史 | ◯ |
データ分析の先生!文系の私に超わかりやすく統計学を教えて下さい! | 郷和貴・高橋信 | ◯ |
100分de名著「資本論」 | 斎藤幸平 | ◯ |
私たちの国で起きていること | 小熊英二 | ◯ |
生きる意味 | 上田紀行 | △ |
アナキズム:一丸となってバラバラに生きろ | 栗原康 | △ |
英語独習法 | 今井むつみ | △ |
ぜんしゅの跫 | 澤村伊智 | ◯ |
戦争は女の顔をしていない | 小梅けいと・スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ | △ |
闇の自己啓発 | 江永泉・木澤佐登志・ひでシス・役所暁 | ◯ |
2021年2月
書名 | 著者 | 評価 |
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学問の自由が危ない | 佐藤学・上野千鶴子・内田樹 | ◯ |
Noヘイト! 出版の製造者責任を考える | ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会 編 | ◯ |
手の倫理 | 伊藤亜紗 | ◯ |
まつろわぬ者たちの祭り 日本型祝賀資本主義批判 | 鵜飼哲 | ◯ |
そしてメディアは日本を戦争に導いた | 半藤一利・保阪正康 | ◯ |
妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話 | ズュータン | ◯ |
この1冊、ここまで読むか! 超深堀り読書のススメ | 鹿野茂 | △ |
小さなトロールと大きな洪水 | トーベ・ヤンソン | ◯ |
ナナメの夕暮れ | 若林正恭 | ◯ |
教養としての歴史問題 | 倉橋耕平・呉座勇一・辻田真佐憲・前川一郎 | ◯ |
表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 | 若林正恭 | ◯ |
感染症の日本史 | 磯田道史 | ◯ |
完全版 社会人大学人見知り学部卒業見込み | 若林正恭 | ◯ |
改良 | 遠野遥 | ◯ |
ドーン | 平野啓一郎 | ◯ |
私とは何か | 平野啓一郎 | ◯ |
News Diet | ロルフ・ドベリ | ◯ |
若い読者に贈る美しい生物講義 | 更科功 | △ |
ご本、出しときますね? | 若林正恭 | ◯ |
日本の「安心」はなぜ消えたのか? | 山岸俊男 | ◯ |
スマホ脳 | アンデシュ・ハンセン | △ |
2021年3月
書名 | 著者 | 評価 |
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現代アートを殺さないために ソフトな恐怖政治と表現の自由 | 小崎哲哉 | ◯ |
みらいめがね それでは息が詰まるので | 荻上チキ | △ |
時代の異端者たち | 青木理 | ◯ |
言葉にできない想いは本当にあるのか | いしわたり淳治 | ◯ |
複眼で見よ | 本田靖春 | ◯ |
定点観測 新型コロナウイルスと私たちの社会 2020年後半 | 編・森達也 | ◯ |
ディスイズアメリカ | 高橋芳朗 | ◯ |
で、オリンピックやめませんか? | 天野恵一・鵜飼哲 | ◯ |
サラ金の歴史 消費者金融と日本社会 | 小島康平 | ◯ |
プラグマティズムの作法 | 藤井聡 | ◯ |
1984 | ジョージ・オーウェル | ◯ |
2021年4月
書名 | 著者 | 評価 |
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主権者のいない国 | 白井聡 | ◯ |
さよなら朝日 | 石川智也 | ◯ |
友人の社会史 | 石田光規 | △ |
権威主義:独裁政治の歴史と変貌 | エリカ・フランツ | ◯ |
なぜ日本人は「空気」を読んで失敗するのか? | 田原総一朗・津田大介 | △ |
地球星人 | 村田沙耶香 | ◯ |
正欲 | 朝井リョウ | ◯ (人生を変えた1冊) |
デス・ゾーン 栗城和多のエベレスト劇場 | 河野啓 | ◯ |
グロテスク | 桐野夏生 | △ |
鴻上尚史のますますほがらか人生相談 | 鴻上尚史 | ◯ |
「テレビは見ない」というけれど | 青弓社編集部 | ◯ |
リニア中央新幹線をめぐって | 山本義隆 | ◯ |
都構想の真実 | 藤井聡 | ◯ |
2021年5月
書名 | 著者 | 評価 |
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人新世の資本論 | 斎藤幸平 | ◯ |
オリンピック 反対する側の論理 | ジュールズ・ボイコフ | ◯ |
吃音 伝えられないもどかしさ | 近藤雄生 | △ |
自発隷従論 | エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ | ◯ |
日の名残り | カズオ・イシグロ | ◯ |
安いニッポン | 中藤玲 | ◯ |
組織の不条理 | 菊澤研宗 | ◯ |
女が死ぬ | 松田青子 | ◯ |
わたしは貴族 | 山内マリコ | ◯ |
人口減少社会の未来学 | 内田樹 編 | ◯ |
どの口が愛を語るんだ | 東山彰良 | ◯ |
偉い人ほどすぐ逃げる | 武田砂鉄 | ◯ |
街場の芸術論 | 内田樹 | ◯ |
2021年6月
書名 | 著者 | 評価 |
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空芯手帳 | 八木詠美 | ◯ |
本心 | 平野啓一郎 | ◯ |
実力も運のうち 能力主義は正義か? | マイケル・サンデル | △ |
日本人のための大麻の教科書 | 大麻博物館 | ◯ |
人志とたけし 芸能にとって「笑い」とはなにか | 杉田俊介 | ◯ |
保身 積水ハウス、クーデターの深層 | 藤岡雅 | ◯ |
NETFLIX コンテンツ帝国の野望 | ジーナ・キーティング | ◯ |
コロナと無責任な人たち | 適菜収 | ◯ |
女たちのポリティクス | ブレイディみかこ | ◯ |
<責任>の生成 中動態と当事者研究 | 國分功一郎・熊谷晋一郎 | ◯ |
「自由」の危機 -息苦しさの唱題 | 内田樹 等 | ◯ |
発達障害当事者研究 ゆっくりていねいにつながりたい | 綾屋紗月・熊谷晋一郎 | ◯ |
あなたの隣の精神疾患 | 春日武彦 | △ |
超空気支配社会 | 辻田真佐憲 | ◯ |
社会契約論/ジュネーヴ草稿 | ジャン・ジャック・ルソー | ◯ |
予言の島 | 澤村伊智 | ◯ |
ニッポンの芸術のゆくえ | 平田オリザ・津田大介 | ◯ |
日本の難点 | 宮台真司 | △ |
多数決は民主主義のルールか? | 斎藤文男 | ◯ |
あとがき
朝井リョウさんの「正欲」は、ここ数年で読んだ小説でもっとも衝撃を受けた1冊。多様性は重要だけど、その多様性というきれいな言葉から、たやすくこぼれ落ちてしまうものがある。決して認められることのない多様性が、この世界にはあることを教えてくれる。これを書くのには、相当勇気が必要だったんじゃないかと思う。
本書に出てくる「生き延びるために、手を組みませんか。」という言葉が、いつまでも心に残る。自分が人と深くつながろうと思うとき、頭に浮かぶのはこの言葉だ。生き延びるために手を組める人としか、つながりたいとは思わない。ずっと頭の中にあったモヤモヤに、言葉を与えてくれた。今のところ、自分が火葬場で焼かれる際に同葬してほしい唯一の本だ。
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