2022年の始まりとともに、日本では新型コロナの感染者がまた増え始めた。それもそのはず、政府はこれといった手を打っていないから。これまで政府から、新型コロナについて論理的な説明を受けた記憶はあるだろうか。なぜ感染者が増えたのか/減ったのか、それはどのような手を打ったからなのか、その結果どのような効果があったのか。医療関係者からの声は別として、政府からそういった具体的な話を聞いたことがない。
なんとなくの対応をしたら、なんとなくうまくいったから、なんとなく感染者は減ってるっぽい。やはり日本人は民度が高いーー。そう考えているとしか思えないし、最後の一言はとある政治家が実際に言った言葉だ。その程度の意識しかない人間たちが日本の舵取りをしていることに、軽く絶望する。いや、そういえばこの9年くらい、ずっと絶望している。
2021年は忌まわしき東京五輪が行われた年として永遠の記録に残るわけだが、もう内実を覚えていない人のほうが多いんじゃないだろうか。結局どれくらいの金が費やされ、どれくらいの経済効果を生み、世界にどんな価値をもたらしたのか。具体的なことを説明できる政治家がいない。もちろん「日本人の民度が高いことを世界に知らしめた」といった検証のしようがことを言い出しそうな人はいるが。コロナ〜五輪の流れで、日本は検証できないことを根拠として示すのが得意な国だと、世界中が認識したと思う。
さて、そんな2021年の後半に読んだ本(雑誌、コミックは除く)は59冊だった。前半に読んだ104冊のおよそ半分。時間はあったはずなのに激減したのは、たぶんゲームプレイに費やしたからだと想定される。特徴としては、文芸作品が少なく、ドキュメンタリーやジャーナリズム寄りの人文書が多くを占めた。フィクションを楽しむよりも、より現実の暗さを知らしめる重いテーマについて、きちんと考えようとしていたのかもしれない。
なかでも人生を変えるレベルで衝撃を受けたのは、武田砂鉄さんの「マチズモを削り取れ」だ。この2年ほど、生まれながらに高下駄を履かされている男のマチズモ(男性優位主義)をいかに剥ぎ取るかを打ち出す本が多く刊行されたように思う。この本もそのひとつだが、武田さんが実際に足を運びながらマチズモの現場を体験し、玉ねぎの皮を剥くように一枚ずつマチズモを言葉で削り取っていく様は、痛いほどだった。それはもちろん、男として育った自身に巣食うマチズモを剥ぎ取られたからに違いない。
だが、そのプロセスを過ぎると気持ちよさが現れる。いわゆる「男らしさ」って、捨ててもいいんだと気づけたからだろう。「男だから◯◯」という言説は、すべて無視していい(もちろん女性も)。そんなステレオタイプなイメージには何の根拠もないし、誰も幸せにしない。そう言ってもらえたような気がする。
2022年、明るい兆しはどこにも見えないが、権力を持つ人間の“虚構の威厳”を剥ぎ取り続けられるよう、きちんと監視していきたい。明るい兆しって、生活者が自身を誇れるようになることで、ようやく見い出せるものじゃないか。生きる尊厳を傷つける輩には、徹底的に抵抗する。ここのところ毎年、1年のテーマは「抵抗」だったが、やはり今年も「抵抗」を掲げようと思う。「抵抗」している本をもっと読んでいける年にしよう。
2021年7月
書名 | 著者 | 評価 |
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さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ | 阿武野勝彦 | ◯ |
うるわしみにくし あなたのともだち | 澤村伊智 | ◯ |
マチズモを削り取れ | 武田砂鉄 | ◯(人生を変える1冊) |
オリンピック・マネー | 後藤逸郎 | ◯ |
どうせ体が目当てでしょ | 王谷晶 | ◯ |
サボる哲学 労働の未来から逃散せよ! | 栗原康 | ◯ |
怒りの人類史 ブッダからツイッターまで | バーバラ・H・ローゼンワイン、高里ひろ | △ |
新世界秩序と日本の未来 米中の狭間でどう生きるか | 姜尚中、内田樹 | ◯ |
テスカトリポカ | 佐藤究 | ◯ |
ポストスポーツの時代 | 山本敦久 | ◯ |
2021年8月
書名 | 著者 | 評価 |
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QJKJQ | 佐藤究 | △ |
間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもへ | ロマン優光 | ◯ |
SNSは権力に忠実なバカだらけ | ロマン優光 | ◯ |
90年代サブカルの呪い | ロマン優光 | △ |
ナンシー関の耳大全77 ザベストオブ「小耳にはさもう」1993-2002 | 武田砂鉄・編 | ◯ |
共感という病 | 永井陽右 | △ |
全部言っちゃうね | 千眼美子/清水富美加 | × |
評伝ナンシー関 「心に一人のナンシーを」 | 横田増生 | ◯ |
この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体 | 青木理、安田浩一 | ◯ |
強権に「いいね!」を押す若者たち | 玉川徹 | △ |
そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか | 能町みね子 | ◯ |
ナンシー関の「小耳にはさもう」ファイナルカット | ナンシー関 | ◯ |
インターネットポルノ中毒 | ゲーリー・ウィルソン/山形浩生 | ◯ |
アンソーシャルディスタンス | 金原ひとみ | ◯ |
言葉尻とらえ隊 | 能町みね子 | ◯ |
室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界 | 清水克幸 | ◯ |
NHKテキスト 100分de名著「群集心理 ル・ボン」 | 武田砂鉄 | ◯ |
絶滅のアンソロジー | 真藤順丈・編 | ◯ |
ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論 | 千葉雅也、山内朋樹、読書猿、瀬下翔太 | × |
コロナと潜水服 | 奥田英朗 | △ |
2021年9月
書名 | 著者 | 評価 |
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九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響 | 加藤直樹 | ◯ |
コロナ黙示録 | 海堂尊 | ◯ |
コロナ狂騒録 | 海堂尊 | ◯ |
死にたくなったら電話して | 李龍徳 | ◯(人生を変える一冊) |
氷獄 | 海堂尊 | ◯ |
イノセント・ゲリラの祝祭 | 海堂尊 | ◯ |
批評の教室 | 北村紗衣 | ◯ |
イルカも泳ぐわい。 | Aマッソ加納 | △ |
日本の気配 増補版 | 武田砂鉄 | ◯ |
ナイチンゲールの沈黙 | 海堂尊 | ◯ |
定点観測 新型コロナウイルスと私達の社会 vol.3 2021年前半 | 森達也・編 | ◯ |
翻訳がつくる日本語 | 中村桃子 | ◯ |
言語学バーリトゥード | 川添愛 | ◯ |
2021年10月
書名 | 著者 | 評価 |
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ニュースの未来 | 石戸論 | ◯ |
老人と海 | アーネスト・ヘミングウェイ | ◯ |
デジタルエコノミーの罠 | マシュー・ハインドマン | ◯ |
くらしのアナキズム | 松村圭一郎 | ◯ |
コロナ後の世界 | 内田樹 | ◯ |
武道論 | 内田樹 | ◯ |
2021年11月
書名 | 著者 | 評価 |
---|---|---|
歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで | 武井彩佳 | ◯ |
新聞記者、本屋になる | 落合博 | △ |
2021年12月
書名 | 著者 | 評価 |
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戦後民主主義に僕から一票 | 内田樹 | ◯ |
六人の嘘つきな大学生 | 浅倉秋成 | ◯ |
怖ガラセ屋サン | 澤村伊智 | ◯ |
常識のない喫茶店 | 僕のマリ | ◯ |
歪んだ波紋 | 塩田武士 | ◯ |
夜が明ける | 西加奈子 | ◯ |
教室がひとりになるまで | 浅倉秋成 | ◯ |
「日本」ってどんな国? 国際比較データで社会が見えてくる | 本田由紀 | ◯ |