「居心地を良くしようとする会社」は居心地が悪い

コロナ禍になるまで、IT系の企業を中心として「いかに自社は居心地が良いか」をアピールするのが盛んだったように記憶している。

先に言っておくと、空調が整っている・パソコンのスペックがそれなりに高い・トイレの数が人数比に対して適正である、といったことは働く上での前提条件である。居心地が良い/悪い以前の問題だ。

ここでの「居心地の良さ」とは、主にオフィス内の環境、もっと言うと福利厚生に近い施策のこと。例えばGoogleのオフィスには卓球台やビリヤード台、テレビゲーム、フィットネスジムにピアノなんかもあるらしい。

国内の企業でも、WantedlyのようなスタートアップからYahoo!といった大手IT企業まで、社員がオフィスにいる時間をいかに有意義に過ごしてもらうかに取り組んでいるそう。

オフィスに卓球台が置かれる時代へ。 オフィスに卓球台がある企業まとめ

当のWantedlyにはそのような企業の求人が多数掲載されており、記事内には福利厚生を楽しく活用している笑顔の社員でいっぱいだ。仕事と距離をおいたコミュニケーションが、やがて仕事のパフォーマンスアップにつながっていくものなんだろうか。

こういった施策はもちろん社員のモチベーションを高めるために生み出されているのだろうけれど、ひとつ共通していることがある。それは仕事「外」の時間を会社で過ごすための施策だということだ。私はそれをとても気持ち悪く感じる。なぜ仕事外の時間を会社で過ごさなければならないのか?

就業時間を有意義に、効率よく、よりパフォーマンスが上がるように取り計らってくれる会社は正しい。会社は、雇っている社員が最高のパフォーマンスを発揮することで最大限の利益を出すことができるように設計されているはずだ(もしそうでないなら、設計自体が間違っていると思う)。経営者はそのことだけ考えていればいいとすら思っている。

エンターテインメントの福利厚生を充実させるという施策に注力する企業は、ひょっとすると仕事外の時間も社内で楽しく過ごしてもらうことで、会社への帰属意識を高めようと考えているのだろうか。会社が提供する居心地の良さ、それがこと私にとっては居心地の悪いものとなっている。

それがなぜなのかを考えてみたところ、私にとっての仕事が「このブルシットな世の中を少しでも良くするため」という目的に沿って行うものであって、会社はそのための手段でしかないことにあるとわかった。

その福利厚生は、「世の中を少しでも良くすること」にまったくつながっていないのだ。

さらにもうひとつ、就業時間内の福利厚生は全社員に還元されるが、仕事外の福利厚生は、それを利用する人にしか還元されないという問題もある。

仕事の後に会社のジムを使おうとは思わないし、卓球やゲームでコミュニケーションを取りたいとも思わない。飲み放題のビアサーバーがあっても飲みたいとは思わないし、ゴルフシュミレータで取引先と大会を開いたりしたくはない。そもそも社員と時間外に会いたいとも思わない。そんな私にとっては、「その分、お金で還元してくれよ」というのが本音だ。

コロナ禍を経験した仕事外福利厚生充実型の企業たちは、現在もこのような仕組みを稼働させ続けているんだろうか。そもそもオフィスに行くことが減っている昨今、こういった設備が本当に社員の帰属意識を高めるのに一役買っていたのか、そう遠くない内に明らかになるだろう。

Photo by Ava Sol on Unsplash