電車で見かける真っ白なブックカバーの正体

あたりまえを疑う『まなざし』

映像作家・菅俊一氏の著書『まなざし』を読んでいると、普段私たちが目にしているものも、視点を変えるだけでこんなにも面白くなるものかと驚かされる。

収録されているどの話もおもしろいが、特に印象深かったのが第1話の『電車で見かけた、白い本』。菅氏が電車に乗っているときによく見かける、白い表紙の本についてのまなざしについてのエピソードだ。

電車で見かけた、白い本

最近になってよく思うが、電車で本を読んでいる人が増えてきたような気がする。ソーシャルゲームがブームだったときは猫も杓子もモンストパズドラで嫌気がさしていたが、ブームも一段落したのか原点回帰なのか、紙の本で読書をしている人が増えてきたように思う。

さて、揺れる車内では両手を空けるのが難しいからか、文庫本や新書といった軽めの本を読んでいる人をよく見かける。そして、ほぼ例外なくブックカバーをつけている。書店で買えばまず間違いなくカバーをつけてくれるので、そのまま読んでいるのだろう。そんな中、菅氏がまなざしで書いているように、時折「真っ白なブックカバー」をつけている人を見かける。

よく見るとそれは、カバーはカバーでも裏返しにした元々のブックカバー。わざわざ折り目を反対側に曲げてカバーにしているみたいだ。一度やってみればわかるとおり、すでに付いている折り目を逆にするのって、かなり面倒だし、収まりが悪くて気持ち悪い。

本の表紙を見られるのって恥ずかしい?

本くらい好きに読ませろと憤る人もいるかと思うが、これに対して菅氏はこう述べている。

いつから私たちは、本の表紙を隠さずに堂々と読むことを「恥ずかしい」と思うようになってしまったのだろうか。

私たちはいつの間にか、自分が好きなものについて「好き」だという意思を表明することに、勇気がいるようになってしまった。自分が子どもだったときは、そんな勇気など関係なく「好き」だと言えていたはずなのに。

大人になり、「これを好きなんて言ってしまうと、みんなに何て思われるかわからないし、怖い」と周りの目線や評価を気にし始めたときから、既に評価が定まったようなものでないと「好き」だと表明をしなくなってしまった。

でも本当は、たとえみんなが「つまらない、面白くない、ダサい」と言おうとも、自分だけが「好き、面白い、かっこいい」と思っていることにこそ、重要なものが詰まっている。

それは、この広い世界の中からあなただけが、その価値を発見できる視点を持っていたということだからだ。

確かに自分も、「好き」という感情を素直に表現することができなくなったなと思うところがある。相手に否定されようが好きなものは好きだし、人の目なんかどうでもいい。小さな頃はそう思っていたのに。

今読んでいる本は、現在の自分の関心を表現するのにもっとも適している

よっぽど表紙を傷つけたくないような本以外、私は基本ブックカバーをつけずにそのまま読む。カバンに入れると端っこが折れ曲がってしまったりするので、きれいな装丁の本は逆にカバーを外して読むときもある。だが、タイトルが人の目に触れることに関して、恥ずかしいと思う気持ちは全くない。むしろ「自分は今こんな本を読んでいるんだぞ!」とアピールしたいくらいの気持ちがある。

本を読むということはつまり、その本の扱っているテーマや内容について少なからず関心があり、読むことによってその考えを自分の中に取り入れるということだ。

本って、ストレートに自分の関心が反映されるもの。タイトルを読めば、今その人がどんなことに関心を持っているのかひと目でわかる。現在の自分を表現するのにもっとも適したものが本なんじゃないだろうか。だから正直、自分には何が恥ずかしいのかわからない。

もっと自分の「好き」をアピールすればいいのに

わざわざ表紙を裏返したために、結果として「私は今、人に知られると恥ずかしいと思っている本をみなさんの前で読んでいるので、カバーを裏返しているのです」という表明になってしまっているのではないか。そんなことを考え、少し心配しながら周りを見回したが、周囲の人はみんなスマートフォンに夢中だった。

何かを隠すというのは、「人前では隠さなければならないものなんですよ」とアピールしているのと同じこと。カバーを裏返してまで本を読んでいる光景は、一種の羞恥プレイなのかなとすら考えてしまう。「恥ずかしい本を読んでいる私をもっと見て!」といったように。

何気ない日常の風景、それもつまらない通勤の風景ですら、まなざしを変えると疑問に思うことはたくさんある。小さな気付きが、少しずつ自分のアウトプットを変えていくもの。そのきっかけとして、この本をぜひ読んでみてほしい。

まなざし』はKindleなどの電書ストアで販売されている。たった300円で買えるので、ふらっとコンビニに寄るのを1回だけ我慢して浮いたお金で、騙されたと思って、ぜひ。あなたの知的好奇心を確実に満足させる自信がある。

Photo by Beatriz Pérez Moya on Unsplash