またしても悪しき昭和サラリーマンの残滓のような、時代錯誤も甚だしい悪言を耳にしたので、少し話をさせてほしい。
始まりはこうだ。意欲を買われ入社した20代の若者が、能力を鍛えるための明確な教育を施されないままに、毎日上司から思いつきレベルの仕事を押しつけられ、スケジュールなんて平気で無視して無茶振りをされまくっていることに悩んでいた。はっきり言うと、辞めようとしている。
その考え次第はいい。とにかく3年は働かないと……みたいな経営者側の論理に身を従えていないのは正しい。驚いたのは、その若者が辞めようと思うに至った「ある言葉」のほうだ。上司と行動をともにしているときに、こんなことを言われたそうだ。
「自分の頭で考えないバカで、言うことを素直に聞いてすぐに行動する、命令したことだけを何でもやってくれる便利な若い男を採用したいんだよね。そんなヤツがいたら紹介して」
”24時間働けますか”を実践していたバブル昭和人を描くマンガなんかで見かける、ある意味では典型的なおっさん。それが現在も生き残っていることにも驚いたが、当の若者を前に平気でこんなことを抜かす、その精神の歪さに思わず閉口した。
かの若者はその上司に採用されたわけだから、つまりは「バカ」で「自分の頭で考えない」「命令したことだけを何でもやる」「便利」な存在として採用されたことになる。これほど人をバカにした発言もないだろう。当然の帰結として、かの若者は著しくモチベーションを落とすことになった。
上司というものは、とにかく部下のモチベーションを上げることだけやっていればいいと思っている。別にご機嫌を取れと言っているわけではなく、努力を褒め、成果を評し、筋道をはっきりとさせた道理ある仕事をその意義とともに説明し、楽しく働ける環境を整える。それだけでいい。結果を出すのは上司ではなく、現場をつくる部下たちなのだから、上司はひたすら部下のサポートにまわるべきじゃないだろうか。
そういった意味で、こういった昭和の残滓は害悪でしかない。「君みたいに言うことを聞く奴隷がほしいんだけど」と言われて喜ぶ人などいない。しかし残念ながら、この「おっさん」どもが表舞台から消え去るには、まだ20年以上はかかるだろう。それまでは、残念ながらその環境から逃げるしかない。「おっさん」が改心することに期待してはいけない。改心なんてしないのが「おっさん」なのだから。
Photo by Bernard Hermant on Unsplash