コロナ禍で読んだ59冊の本|2021年7月〜12月

2022年の始まりとともに、日本では新型コロナの感染者がまた増え始めた。それもそのはず、政府はこれといった手を打っていないから。これまで政府から、新型コロナについて論理的な説明を受けた記憶はあるだろうか。なぜ感染者が増えたのか/減ったのか、それはどのような手を打ったからなのか、その結果どのような効果があったのか。医療関係者からの声は別として、政府からそういった具体的な話を聞いたことがない。

なんとなくの対応をしたら、なんとなくうまくいったから、なんとなく感染者は減ってるっぽい。やはり日本人は民度が高いーー。そう考えているとしか思えないし、最後の一言はとある政治家が実際に言った言葉だ。その程度の意識しかない人間たちが日本の舵取りをしていることに、軽く絶望する。いや、そういえばこの9年くらい、ずっと絶望している。

2021年は忌まわしき東京五輪が行われた年として永遠の記録に残るわけだが、もう内実を覚えていない人のほうが多いんじゃないだろうか。結局どれくらいの金が費やされ、どれくらいの経済効果を生み、世界にどんな価値をもたらしたのか。具体的なことを説明できる政治家がいない。もちろん「日本人の民度が高いことを世界に知らしめた」といった検証のしようがことを言い出しそうな人はいるが。コロナ〜五輪の流れで、日本は検証できないことを根拠として示すのが得意な国だと、世界中が認識したと思う。

さて、そんな2021年の後半に読んだ本(雑誌、コミックは除く)は59冊だった。前半に読んだ104冊のおよそ半分。時間はあったはずなのに激減したのは、たぶんゲームプレイに費やしたからだと想定される。特徴としては、文芸作品が少なく、ドキュメンタリーやジャーナリズム寄りの人文書が多くを占めた。フィクションを楽しむよりも、より現実の暗さを知らしめる重いテーマについて、きちんと考えようとしていたのかもしれない。

なかでも人生を変えるレベルで衝撃を受けたのは、武田砂鉄さんの「マチズモを削り取れ」だ。この2年ほど、生まれながらに高下駄を履かされている男のマチズモ(男性優位主義)をいかに剥ぎ取るかを打ち出す本が多く刊行されたように思う。この本もそのひとつだが、武田さんが実際に足を運びながらマチズモの現場を体験し、玉ねぎの皮を剥くように一枚ずつマチズモを言葉で削り取っていく様は、痛いほどだった。それはもちろん、男として育った自身に巣食うマチズモを剥ぎ取られたからに違いない。

だが、そのプロセスを過ぎると気持ちよさが現れる。いわゆる「男らしさ」って、捨ててもいいんだと気づけたからだろう。「男だから◯◯」という言説は、すべて無視していい(もちろん女性も)。そんなステレオタイプなイメージには何の根拠もないし、誰も幸せにしない。そう言ってもらえたような気がする。

2022年、明るい兆しはどこにも見えないが、権力を持つ人間の“虚構の威厳”を剥ぎ取り続けられるよう、きちんと監視していきたい。明るい兆しって、生活者が自身を誇れるようになることで、ようやく見い出せるものじゃないか。生きる尊厳を傷つける輩には、徹底的に抵抗する。ここのところ毎年、1年のテーマは「抵抗」だったが、やはり今年も「抵抗」を掲げようと思う。「抵抗」している本をもっと読んでいける年にしよう。

2021年7月

書名著者評価
さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ阿武野勝彦
うるわしみにくし あなたのともだち澤村伊智
マチズモを削り取れ武田砂鉄◯(人生を変える1冊)
オリンピック・マネー後藤逸郎
どうせ体が目当てでしょ王谷晶
サボる哲学 労働の未来から逃散せよ!栗原康
怒りの人類史 ブッダからツイッターまでバーバラ・H・ローゼンワイン、高里ひろ
新世界秩序と日本の未来 米中の狭間でどう生きるか姜尚中、内田樹
テスカトリポカ佐藤究
ポストスポーツの時代山本敦久

2021年8月

書名著者評価
QJKJQ佐藤究
間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもへロマン優光
SNSは権力に忠実なバカだらけロマン優光
90年代サブカルの呪いロマン優光
ナンシー関の耳大全77 ザベストオブ「小耳にはさもう」1993-2002武田砂鉄・編
共感という病永井陽右
全部言っちゃうね千眼美子/清水富美加×
評伝ナンシー関 「心に一人のナンシーを」横田増生
この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体青木理、安田浩一
強権に「いいね!」を押す若者たち玉川徹
そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか能町みね子
ナンシー関の「小耳にはさもう」ファイナルカットナンシー関
インターネットポルノ中毒ゲーリー・ウィルソン/山形浩生
アンソーシャルディスタンス金原ひとみ
言葉尻とらえ隊能町みね子
室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界清水克幸
NHKテキスト 100分de名著「群集心理 ル・ボン」武田砂鉄
絶滅のアンソロジー真藤順丈・編
ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論千葉雅也、山内朋樹、読書猿、瀬下翔太×
コロナと潜水服奥田英朗

2021年9月

書名著者評価
九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響加藤直樹
コロナ黙示録海堂尊
コロナ狂騒録海堂尊
死にたくなったら電話して李龍徳◯(人生を変える一冊)
氷獄海堂尊
イノセント・ゲリラの祝祭海堂尊
批評の教室北村紗衣
イルカも泳ぐわい。Aマッソ加納
日本の気配 増補版武田砂鉄
ナイチンゲールの沈黙海堂尊
定点観測 新型コロナウイルスと私達の社会 vol.3 2021年前半森達也・編
翻訳がつくる日本語中村桃子
言語学バーリトゥード川添愛

2021年10月

書名著者評価
ニュースの未来石戸論
老人と海アーネスト・ヘミングウェイ
デジタルエコノミーの罠マシュー・ハインドマン
くらしのアナキズム松村圭一郎
コロナ後の世界内田樹
武道論内田樹

2021年11月

書名著者評価
歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで武井彩佳
新聞記者、本屋になる落合博

2021年12月

書名著者評価
戦後民主主義に僕から一票内田樹
六人の嘘つきな大学生浅倉秋成
怖ガラセ屋サン澤村伊智
常識のない喫茶店僕のマリ
歪んだ波紋塩田武士
夜が明ける西加奈子
教室がひとりになるまで浅倉秋成
「日本」ってどんな国? 国際比較データで社会が見えてくる本田由紀